11月14日。
今夜のスーパームーンは、生憎の厚い雲のむこう。
昨晩は春の朧夜のような風情で、
薄衣を纏っていたけれど。

 春で朧、といえば
泉鏡花の小説「日本橋」
新派では二人の芸妓に重点をおいた芝居となっている。
 鏡花の台詞は美しくて、喋るほうは苦労するだろうけれど、とてもロマンチック。

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芝居の前段、
大正の始め、三月四日の夜。
 行方知れずの姉によく似た芸妓清葉に、長年の想いを打ち明けたものの「旦那以外に男は持たない」と。
傷心の医学士・葛木は一石橋から、雛に供えた栄螺と蛤を放す。
不審に思う巡査から尋問されるところへ、
同じく栄螺と蛤を放しにやってきた芸妓のお孝。
橋の上に朧月。


小唄「日本橋・上」

笛の音も
曇りがちなる弥生空
暗き思いに葛木が
断ち切る絆 川水へ
流す供養の雛まつり
つながる縁の西河岸は
春で朧でご縁日
お地蔵さまの御利生が
利いて御神酒の酔い心地
一石橋の達引も
意地が生命の左褄

伊東深水 作
春日とよ 曲


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中盤の、雪の一石橋の場面では、こんな小唄が使われている。

からかさの
骨はばらばら
紙や破れても
離れ離れまいぞえ
千鳥がけ


雪のなか傘さして送ってきたお孝と、常盤橋辺りから車で帰るという葛木。
離れたくないお孝。
 傘を車に見立てくるくる回して、自分も車に乗ってるところだ、と。
コミカルなシーンのあと、
物語は人間の心の闇、狂気、死へと向かう。


小唄「日本橋 下」

淡雪の消えてはかなき
春の宵
あかぬ別れも人の世の宿命(さだめ)としれど
口惜しく思い乱れて狂う身も
片身の謎の人形を抱いて寝る夜は明け易く
泣けて涙の花時雨
離ればなれのおしどりが
心の闇にふみ迷う
輪廻はつきぬ日本橋

伊東深水 作
春日とよ 曲

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以前「日本橋 上」を唄ってみたけれど、どうにも難しくて。

来年リベンジ!のつもり。
タマ