銀座和光の化粧室にて、
「あら、着崩れてますよ。直して差し上げましょう」と品の良い奥様。
されるがままに直していただき、お礼を言ってその場を離れたけれど、
 これでは電車のつり革にも手が届かない。
身八つ口のうしろ側を引っ張り出してホッとした。
どこかの着付け教室で習ってきたんだろうけど、まぁ窮屈なことで…
 これは、お師匠さんの体験談。

 なるほど、日常的にキモノを着ない人には動作のための布の遊びも着崩れに見えるのだろう。
 件の奥様は、キモノを着て電車のつり革に掴まったことがないのかもしれない。

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 お師匠さんの日常着は踊りの稽古着物である。
男のカタチを踊る立役(男形)だから
「橋弁慶」のように大長刀を振り回すような稽古もする。
キモノで何でも出来る。
出来るような着付けをする。
 シワひとつない着付けでは、じっとしているしかない。

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 キモノが日常着でなくなってからは、雑誌に載っているカタログ写真のような着付けをお手本と思う人も多いらしい。
 雑誌に掲載するキモノは、仮縫い状態のものもあり、特殊な着付けを要する。
また、柄行きを見せるために褄先を上げずに着せたりもする。
シワが映らないように紙を入れたり、クリップで留めたり。
 撮影着付けの先生方は、さまざまな技術がないと務まらない。

 そんなわけだから、キモノ雑誌みたいな着付けができないからといってガッカリすることはない。
動いてできる自然な弛みを着崩れと思うこともない。

ご自分の個性に合わせて、着心地よくキモノを楽しんでほしいものだ、と歌舞伎座の地下広場で待ち合わせの人々を眺めつつ、思う。

タマ(^^)